一秀くんの同級生のブログ

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ベストテン

 小4の時受け持ちになったS先生は独特な教え方をした。「ベストテン」という競争方式だ。
 どうやるかというと、まずクラス全員の名前を書いた棒グラフを教科別に作って、壁に貼っておく。授業で先生が問題を出したら、生徒は答えを書いたノートを教壇まで見せに行く。正解なら先生に「ベストテン!」と言われ、黒板に自分の名前を書く。先着10人までが名前を書くことができた。そしてこの10人は、後で棒グラフの自分のところに1マス赤いマジックで塗って良いことになっていた。正解が多くなればグラフも伸び、その教科の勉強がよくできていることが、クラス全員に一目瞭然となる。
 これには私も燃えた。今思えば、意欲のない子供のモチベーションを高めるには抜群の指導方法だ。私は見事にはまり、家に帰ってからも勉強するようになった。学校の勉強を一生懸命やったのは、その時が初めてだった。
 S先生のやり方のポイントは、努力した者が報われ、褒められるということだ。何らかの努力が認められると、ボーナスポイントがもらえた。そして、めったに褒められない子も、時にはベストテンがもらえるように配慮がなされていた。同じ班の子供同志で、教え合ったり助け合ったりするようにさせたのだったかもしれない。この方式でクラス全員の学習意欲が向上したと思う。S先生には今でも感謝している。

 さて、このころはかずちゃんの他にも勉強のできる子は何人もいたし、ベストテンのグラフが伸びているのはかずちゃんだけではなかった。彼は勉強ができるのを鼻にかけるようなことは決してなく、周囲も彼を特別視しなかった。けれども、彼を「並はずれている」と感じさせたエピソードがある。

 理科の時間に、「卵の黄身と白身では固まる温度が違うので、ポットの中に卵と70度のお湯を入れ、一晩おくと黄身だけ固まっているはずだ」と先生が言った。別に宿題と言われたわけでもないので、ほとんどの生徒はそのまま何もしなかった。次の日になって、かずちゃんともうひとりの男の子が、卵の入ったポットを持ってきた。先生が卵を割ってみたところ、ちゃんと固まっていなかったが、このふたりは努力が認められてベストテンをもらった。
 私は、ベストテンがもらえるならやってみればよかったと思った。そのまた翌日、今度はかずちゃんだけがポットを持ってきた。前日のよりうまい具合に黄身が固まっていた。先生はこの日もベストテンを進呈した。なんだ、今日ももらえたのかと、少し悔しく思った。でも、かずちゃんだってこの日もベストテンがもらえるかどうかはわからなかったはずだ。どうしてそんな面倒な実験をわざわざやったのかな?と考えて気付いた。
「かずちゃんはベストテンが欲しくてやったんじゃなく、知りたくてやったんだ。」

 私が勉強をがんばるのは、先生に褒めてもらいたい、友達に負けたくないという理由からだった。しかし、彼のモチベーションは他者から与えられたものではなく、自ずから備わっているものだった。
 彼の向上心や探求心が、一体どこから来るのかはわからなかった。ただ、私は彼を見ていて大いに啓発され、自分ももっと積極的に物事に取り組まなければいけないと思った。小学校の六年間、彼の言動から教えられることは多く、良い子供時代を送ることができたと思う。

 彼という同級生を持てたことは、私の人生の宝だと思う。かずちゃんには心から感謝している。
by hirarin-601 | 2006-10-05 10:32 | 少年時代の植草さん